薬剤師のためのBasic Evidence(制吐療法) | 日医工株式会社
この試験では,Likert Scale を用いた5 日間のデキサメタゾン関連の有害事象評価を行っている。4,5 日目のほてりと5 日目の振戦は3 日間投与群でより頻度が高く,2,3 日目の食欲不振,2 日目の抑うつ,2,3 日目の倦怠感は1 日目投与群でより頻度が高かった。また,食欲不振と倦怠感に関しては,2,3 日目において1 日目投与群よりも3 日間投与群で軽度と答えた患者の割合が高かった。
高度催吐性化学療法における アプレピタントの有効性についての検討
嘔吐抑制については,遅発期のCR 割合を指標として評価した。2 編のランダム化比較試験の結果は差がないということで一致していたが,シスプラチンを含む治療レジメンのサブグループでは遅発期のCR 割合において1 日目投与群の3 日間投与群に対する非劣性が示されておらず,また対照群である3 日間投与はシスプラチンを含む治療レジメンに対する標準制吐療法の投与日数と異なるため,AC 療法以外の高度催吐性リスク抗がん薬についてはデキサメタゾンの投与期間短縮を推奨する根拠がない。
悪心抑制の指標は「遅発期のCC 割合」,「遅発期のTC 割合」とした。遅発期のCC 割合は,嘔吐抑制と同じ2 編のランダム化比較試験,をもとに評価した。メタアナリシスでは出版バイアスは認められず,両群間に有意差はなかった〔RD -0.03(95%CI:-0.13-0.06,p=0.53)〕()。なお,ランダム化第Ⅱ相比較試験では両群間に有意差はなかったが,ランダム化第Ⅲ相比較試験では全体,両サブグループ(AC 療法,シスプラチンを含む治療レジメン)ともに非劣性は示されず,両試験の患者数,患者背景,統計手法(優越性あるいは非劣性)の違いが影響していると考えられた。
また、デキサメタゾン及びメチルプレドニゾロンとの相互作用の検討では、推奨用法・用
QOL 評価においては,3 日間投与群で便秘と下痢のスコアがより悪く,1 日目投与群では食欲不振と身体機能のスコアがより悪い結果であった。デキサメタゾン短縮投与により,ほてりや振戦が抑制される可能性があるものの,食欲不振や倦怠感はデキサメタゾンによって抑えられていた可能性が否定できない結果となっている。
一方,後者のランダム化比較試験のサブグループ解析では,シスプラチンを含む治療レジメンの遅発期のCR 割合において,1 日目投与群の3 日間投与群に対する非劣性は示されなかった。また,シスプラチンを含む治療レジメンに対する標準制吐療法のデキサメタゾン投与期間は4 日間であるが,本試験の対照群のデキサメタゾン投与期間は3 日間であったことに留意する必要がある。最終的に2 編のメタアナリシスの結果としては差はないが,AC 療法以外の高度催吐性リスク抗がん薬に対するデキサメタゾンの投与期間短縮を推奨する根拠はない。
尿路上皮癌化学療法に伴う悪心・嘔吐に対するパロノセトロン/デキサメタゾンおよびパロノセトロン/アプレピタント/デキサメタゾン併用療法の検討
嘔吐抑制の指標は「遅発期のCR 割合」とし,デキサメタゾンの1 日目投与と3 日間投与を比較したランダム化比較試験2 編,をもとに評価した。1 編は乳がんのAC 療法のみを対象とした単施設単盲検ランダム化第Ⅱ相比較試験,もう1 編は乳がんのAC 療法とシスプラチンを含むレジメンを対象とした多施設共同二重盲検ランダム化第Ⅲ相比較試験であった。両試験ともNK1 受容体拮抗薬および5-HT3 受容体拮抗薬としてパロノセトロンを使用していた。遅発期のCR 割合において,メタアナリシスで出版バイアスは認められず,両群間に有意差はなかった〔RD 0.0(95%CI:-0.11-0.12,p=0.95)〕()。
近年,多受容体作用抗精神病薬(MARTA)であるオランザピンが,高度および中等度リスク抗がん薬による遅発期での悪心・嘔吐のコントロールに有用であるとの報告が多くなされている。わが国においても臨床試験結果が順次報告されており,欧米でのコンセンサスや,臨床的意義から2017 年6 月から標準的制吐療法に併用として使用できるようになった(→, 参照)。遅発性悪心・嘔吐の制御を行うための有効な薬剤としてわが国でのさらなる研究が期待される。
アプレピタント,デキサメタゾン3剤併用の非盲検非対照第II相試験
したがって,デキサメタゾンの投与期間短縮を検討する際には,悪心・嘔吐抑制以外のアウトカムにも差異が生じる可能性について説明を行ったうえで,益と害のバランスおよび患者のライフスタイル,価値観,好みを含めて検討することが必要である。
ランダム化比較試験は行われておらず,一般的には軽度リスク・最小度リスク抗がん薬に対して制吐薬は推奨されない(参照)。
5-HT3受容体拮抗薬とデキサメタゾンの2剤を併用する。 イホスファミド、メトトレキサートを投与する場合は、さらに
女性は男性に比べ催吐リスクが高いことが知られている(→参照)。本邦の呼吸器領域と婦人科領域における制吐療法の第II相試験の報告では,同じカルボプラチンを用いても,アプレピタントを含む3剤制吐療法を用いた場合,全期間嘔吐完全制御割合は,呼吸器領域では8割程度であるのに対し,婦人科領域では6割程度であった。また,婦人科領域の悪性腫瘍でカルボプラチンを用いる際に,第1世代5-HT3受容体拮抗薬とデキサメタゾンのみを用いた群に比べ,これらにアプレピタントを加えた群では,「“食事や水分も摂れない強い悪心”がない」と「5日間嘔吐なし」の割合がそれぞれ有意に高かった。ただし,副次評価項目として制吐効果をみた研究であり,2,3 日目にはデキサメタゾンが用いられていないという制限がある。
シスプラチンを基にした高度催吐性化学療法の開始前、1 日目に 5-HT3 拮抗薬
遅発期に有効なNK1 受容体拮抗薬と,半減期の長い第2 世代5-HT3 受容体拮抗薬であるパロノセトロンの登場により,中等度催吐性リスク抗がん薬を対象に,2 日目以降(遅発期)のデキサメタゾン投与省略の可否を検証した複数のランダム化比較試験が行われ,悪心・嘔吐抑制効果について,1 日目(急性期)投与群の3~4 日間(急性期+遅発期)投与群に対する非劣性が示された。その後,高度催吐性リスク抗がん薬においても遅発期のデキサメタゾン投与省略が検証されたため,本CQ を設定した。
およびデキサメタゾンとアプレピタントを併用し、化学療法後となる 2 日目と
アプレピタントとデキサメタゾンの併用もしくはアプレピタント単独投与の遅発性嘔吐に対する有用性もNCCN ガイドライン2017 や,レビューで示されている。個々の臨床試験では,中等度リスクに対するアプレピタントを含む3 剤の効果をみたランダム化比較試験がある。現在は高度リスクに分類されるAC 療法が約半数含まれている試験であるが,AC 療法以外の中等度リスクにおいても一次評価項目である「5 日間嘔吐なし」の割合が有意にアプレピタント群で高かった。ただし,これはサブグループ解析である点に注意が必要である。わが国でも,二重盲検ではないことに留意する必要があるが,オキサリプラチンベースの抗がん薬を用いる大腸がん症例において,5-HT3受容体拮抗薬とデキサメタゾンの併用療法にアプレピタント/ホスアプレピタントの上乗せ効果を,全期間および遅発期における嘔吐制御割合で証明した第III相ランダム化比較試験(SENRI 試験)の報告がある。さらに,AC 療法を除外した中等度リスク対して第1 世代5-HT3受容体拮抗薬(オンダンセトロン,1~3 日目),デキサメタゾン(1日目のみ)の2 剤併用群に対してホスアプレピタント併用の効果を見たランダム化比較試験がある。7 割以上の患者においてカルボプラチン,オキサリプラチンを含むレジメンが使用されていた。ここでは対照群のオンダンセトロン(1~3 日目),デキサメタゾン(1日目のみ)の2 剤併用群に比べて,主要評価項目である完全嘔吐制御割合が3剤併用群で有意に高かった(77.1% vs. 66.9%)。
注)アプレピタントを使用しない場合は、1日目のデキサメタゾン注射薬
AC 療法以外の高度催吐性リスク抗がん薬におけるデキサメタゾンの投与期間短縮(ステロイドスペアリング)のエビデンスは確立されていない。
ノセトロンとデキサメタゾン併用下においてオランザピン 10mg はアプレピタントと同等
5-HT3受容体拮抗薬もしくはデキサメタゾンとの併用は,各単独療法と効果に差はなく,費用対効果において5-HT3受容体拮抗薬の有用性は疑わしいとされている(パロノセトロンはこの検討に含まれていない)。しかし,肝炎などでデキサメタゾンが使用できない場合は,5-HT3受容体拮抗薬を用いることもある。さらに遅発性嘔吐におけるパロノセトロン単独投与の有用性をdolasetron との比較で明らかにした第III相ランダム化比較試験の結果もあり,遅発性嘔吐に対するパロノセトロン単独使用は,現時点ではオプションの一つと考えられる(なお,ここでいう単独療法とは遅発性嘔吐に対するものであり,急性嘔吐に対する薬物療法に関しては を参照されたい)。5-HT3受容体拮抗薬と副腎皮質ステロイドは制吐効果,QOL 改善効果において同等であると報告した第III相ランダム化比較試験もある。MASCC/ESMO ガイドライン2016,ASCO ガイドライン2017 では,中等度リスク抗がん薬による遅発性嘔吐に対して,前述したパロノセトロンとデキサメタゾンの併用療法が推奨されている(参照)。
細胞腫瘍に対する低用量シスプラチン分割投与におけるアプレピタントの併用使用は,遅発期の悪心・嘔吐の軽減
システマティックレビューの結果から,益については評価不能であったが,害についてはデキサメタゾンの投与期間を短縮しても差がないと評価されたため,デキサメタゾンの投与期間短縮(ステロイドスペアリング)は有用と考えられる。なお,AC 療法以外の高度催吐性リスク抗がん薬ではデキサメタゾンの投与期間短縮のエビデンスは確立していないことに注意が必要である。
注)アプレピタントを使用しない場合は、1日目のデキサメタゾン注射薬は
【参照】 2015ASCO 総会で報告された乳がんに対するアントラサイクリン系抗がん薬とシクロホスファミドを含むレジメンに対するデキサメタゾン/ホスアプレピタント併用下でのグラニセトロンとパロノセトロンの比較を行ったわが国の第III相ランダム化比較試験(WJOG6811B 試験)では,主要評価項目である遅発性悪心・嘔吐の完全制御割合において両群間に有意差は認められなかったが,二次評価項目ではパロノセトロン群が遅発期において有意に悪心を抑制した。
デキサメタゾン併用が術後の悪心・嘔吐に与える影響.麻酔 2008 ; 57 : 978-982 (Ⅰ)
高度催吐性リスク抗がん薬の悪心・嘔吐予防として,3 剤併用療法(5-HT3 受容体拮抗薬,NK1 受容体拮抗薬,デキサメタゾン)を行う場合,AC 療法においては,デキサメタゾンの投与期間を3~4 日間から1 日目のみに短縮(遅発期である2 日目以降を省略)することを弱く推奨する。その場合,5-HT3 受容体拮抗薬は第2 世代のパロノセトロンを選択することが望ましい。
[PDF] 2016年04月 『抗癌剤の催吐性リスク分類と制吐療法について』
CHOP 療法も高度催吐性リスクに分類されている。しかし実臨床では制吐薬として2 剤併用が行われる傾向にある。これは高用量のプレドニゾロンを5 日間投与するため遅発性の悪心嘔吐が低いと考えられているためであり,実際に我が国で行われたCINV 観察研究では,79%で2 剤併用が行われていた。CHOP 療法に対するNK1 受容体拮抗薬の有効性については,1 コース目は2 剤併用を行い,2 コース目からNK1 受容体拮抗薬を上乗せする試験が報告されている。また第2 世代の5-HT3受容体拮抗薬の有効性について検討したいくつかの前向き試験が本邦より報告されている 。2 剤併用,3 剤併用のどちらが良いかについてのランダム化比較試験は,第II相試験での報告しかなく,今後の検討が必要である。
• デキサメタゾンは血糖上昇や不眠、骨量低下等の副作用を有する
システマティックレビューレポートに基づいて,推奨草案「高度催吐性リスク抗がん薬のうち,AC 療法においては,悪心・嘔吐予防としてデキサメタゾンの投与期間を1 日に短縮することを弱く推奨する。」が提示され,推奨決定の協議と投票の結果,22 名中21 名が原案に賛同し,合意形成に至った。
• 中等度またはシスプラチン以外の高度催吐リスク化学療法に対して
システマティックレビューレポートに基づいて,推奨草案「高度催吐性リスク抗がん薬の悪心・嘔吐予防として,3 剤併用療法へのオランザピンの追加・併用を強く推奨する。」が提示され,推奨決定の協議と投票の結果,23 名中22 名が原案に賛同し,合意形成に至った。