グルココルチコイドは、細胞内のグルココルチコイド受容体に結合して遺伝子の転写を調節
V.バリシチニブ(JAK阻害薬)
COVID-19と診断された入院患者1,033人を対象にレムデシビル(10日以内)に加えて,バリシチニブ(14日以内)またはプラセボ(対照)を投与したRCTでは,バリシチニブを投与された患者の回復までの期間中央値は7日,対照群では8日であり(回復率比,1.16;95%CI,1.01~1.32;P=0.03),15日目の臨床状態の改善オッズは30%高かった(オッズ比,1.3;95%CI,1.0~1.6).また登録時に高流量酸素または非侵襲的人工呼吸を受けた患者の回復までの期間は,併用療法で10日,対照群で18日であった(回復率比,1.51;95%CI,1.10~2.08).デキサメタゾンとバリシチニブの優位性の検証は現在行われているところである.
すでにデキサメタゾンなどのステロイドを投与されている患者に追加でバリシチニブを投与することで予後を改善する効果もあると考えられている.侵襲的人工呼吸を行っていないCOVID-19の入院患者1,525名を対象とした多国籍プラセボ対照無作為化試験のプレプリントの報告では,標準治療にバリシチニブを追加することで28日後の死亡率が低下した(プラセボ群13.1%に対して8.1%,HR0.57,95%CI0.41~0.78).
なお後述のトシリズマブとの併用については効果・安全性は不明のため推奨されない.
機序:重症COVID-19患者は、肺障害および多臓器不全をもたらす全身性炎症反応を発現
コロナの飲み薬を服用する際は、医師の指示に従う必要があります。間違った方法で服用すると効果が現れなかったり、副作用が強く現れたりすることが懸念されます。
この記事では、デキサメタゾンの効果や副作用、薬価などについて解説していきました。現在では、2020年5月にレムデシビル(商品名:ベクルリー®点滴静注液)が特例承認され、ファビピラビル(商品名:アビガン®錠)などの適応外使用も認められるなど、新型コロナウイルス感染症に対して用いることのできる薬剤の選択肢は増えつつあります。
[PDF] COVID-19に対する薬物治療の考え方 第13版
VII.ファビピラビル
ファビピラビルは効能・効果を「新型又は再興型インフルエンザウイルス感染症(但し,他の抗インフルエンザウイルス薬が無効又は効果不十分なものに限る)」に限定して,2014年3月に厚生労働省の承認を受けている.その作用機序は,生体内で変換された三リン酸化体(T-705RTP)が,ウイルスのRNAポリメラーゼを選択的に阻害するものであることから,インフルエンザウイルス以外のRNAウイルスへも効果を示す可能性がある.での新型コロナウイルスのEC50は61.88Mでありエボラウイルスに対する数値に類似している.藤田医科大学が中心となって無症状・軽症患者89名に実施された多施設無作為化オープンラベル試験では,試験参加1日日から内服を開始した群(通常投与群)と6日目から内服を開始した群(遅延投与群)で,参加6日目までのPCR陰性化率が通常投与群で66.7%,遅延投与群で56.1%(aHR1.42;95%CI,0.76~2.6,P=0.27),また発熱患者の試験参加1日日から解熱までの時間が通常投与群で2.13日,遅延投与群で3.15日(aHR1.88;95%CI,0.81~4.35,P=0.14)と報告されており,有意差には達しなかったものの早期のPCR陰性化,解熱傾向がみられた.また,ロシアで行われたランダム化比較試験では,投与4日目のウイルス消失率が,プラセボ群と比較して高く,また発熱消失時間も短かったと報告されており,ファビピラビルの有効性についてはまだ結論が出ていないが,現時点では新型コロナウイルス感染症患者にルーチンで投与が推奨されるものではないと考える.
新型コロナウイルス感染症の治療薬として国内で2番目に承認された「デキサメタゾン」という薬をご存知でしょうか。合成副腎皮質ホルモン剤(ステロイド)で、免疫抑制、抗炎症、抗アレルギー作用があります。
機序:重症COVID-19患者は、肺障害および多臓器不全をもたらす全身性炎症反応を発現す
また、デキサメタゾンの服用により、誘発感染症、続発性副腎皮質機能不全、消化性潰瘍、糖尿病、精神障害などの重篤な副作用があらわれる例が報告されています。これらの副作用があらわれた場合における対応について、適切な指導を行うことも求められています。
一方、レムデシビルの有効性については否定的な報告も存在する。重症COVID-19患者を対象に中国で実施された多施設共同プラセボ対照二重盲検RCTでは、目標被験者数452例の組み入れを達成できず237例の組み入れで試験を終了した為統計学的な解釈は困難であるものの、臨床状態改善までの時間に両群の差は認められなかった(本剤群21日、プラセボ群23日、ハザード比:1.23[0.87, 1.75])。世界30カ国から入院中COVID-19患者を登録し、レムデシビルを含む複数の薬剤の有効性を評価するWHO主導の非盲検RCT(Solidarity試験)の中間解析の結果も、死亡率、挿管率、入院期間等の有効性評価指標について、各治療群(レムデシビル、ヒドロキシクロロキン、ロピナビル及びインターフェロン1α)と各々の対照群との間に大きな差異を認めなかった。このように、レムデシビルの有効性に関して試験間でのばらつきはあるが、これまでの試験成績や作用機序からは、重症化前の酸素需要のある発症早期例でより高い効果が得られることが想定される。
主な治療薬として、デキサメタゾン、バリシチニブ、トシリズマブなどが認可されています。 ..
糖質コルチコイドは、(estrogen receptor)とともに核内受容体の仲間(ファミリー)に属している。これはリガンド結合ドメイン(ligand-binding domain)、DNA結合ドメイン(DNA-binding domain)、トランス活性化ドメイン(transactivation domain)という3つの部分で構成されている。ヒトの場合、この受容体のリガンドとして最もよくあるのがストレスホルモンの一つコルチゾール(cortisol)である。受容体がコルチゾールに結合すると、受容体の構造が変化し細胞質から核へと移動する。核内では、標的DNA配列に結合し遺伝子発現に影響を与えることができる。糖質コルチコイド受容体は活性化補助因子(coactivator)とも相互作用し、遺伝子発現のしくみをさらに調整することができる。受容体は柔軟なリンカーでつながれたいくつかのドメインで構成されているので、ドメインの構造は別々に決定された。デキサメタゾンに結合したリガンド結合ドメインの構造はPDBエントリー、DNAに結合したDNA結合ドメインの構造はPDBエントリーのものを示す。トランス活性化ドメインはここに示していない。これらのドメインがすべて一緒になり、コルチゾールの結合によって引き起こされる最初のメッセージが伝達される。
IV.デキサメタゾン
重症COVID-19患者は,肺障害および多臓器不全をもたらす全身性炎症反応を発現する.コルチコステロイドの抗炎症作用によって,これらの有害な炎症反応を予防または抑制する可能性が示唆されている.
英国で行われた入院患者を対象とした大規模多施設無作為化オープンラベル試験では,デキサメタゾンの投与を受けた患者は,標準治療を受けた患者と比較して死亡率が減少したことが示された.
この研究は6,425人の参加者を対象に行われ,デキサメタゾン群2,104人,対照群4,321人が参加した.デキサメタゾン群の参加者の21.6%,対照群の24.6%が,試験登録後28日以内に死亡した(RR0.83;95%CI,0.74~0.92,P<0.001).予後改善効果は,無作為化時に侵襲的人工呼吸管理を必要とした患者で最大であり,また登録時に酸素投与を必要とした症例でも予後改善効果がみられた.しかし,登録時に酸素投与を要しなかった集団では予後改善効果はみられなかった.本邦ではデキサメタゾンが使用された報告はないものの,プレドニゾロンなど他の種類のステロイド薬が使用された症例報告は散見される.なお,デキサメタゾンは現在の承認の範囲内で新型コロナウイルス感染症に対しても使用可能である.
なお,ステロイドであるデキサメタゾンをウイルス増殖期に投与すれば理論的にはむしろ予後を悪化することも懸念されることから,現時点では酸素投与が必要な中等症2の時点で投与を開始することが一般的である.
ヒトIL-6受容体モノクローナル抗体である。新型コロナウイルス感染症による重症肺炎のメカニズムに関する仮説として、.
III.レムデシビル(商品名:ベクルリー点滴静注液100mg等)
レムデシビルはRNAウイルスに対し広く活性を示すRNA依存性RNAポリメラーゼ阻害薬で,もともとはエボラウイルス感染症の治療薬として開発されたが,で新型コロナウイルスに対し良好な活性を示すことから,新型コロナウイルス感染症患者への投与が行われてきた() ~ .
これまでの知見から,レムデシビルはすでに挿管や高流量の酸素投与に至った重症例では効果が期待できない可能性が高いが,サブグループ解析の結果からは,そこまでに至らない酸素需要のある症例では有効性が見込まれる.
投与期間に関しては,挿管例を除く低酸素血症のあるCOVID-19肺炎患者では5日間治療群と10日間治療群とでは有効性・副作用に差がなかったこと,および前述の軽症肺炎を対象として3群でのRCTでは10日間投与群と標準治療群は有意差がみられなかったことから,原則として5日間の投与が推奨されるが,個別の患者の背景に応じた判断を行う.
副作用としては,肝機能障害,下痢,皮疹,腎機能障害などの頻度が高く,重篤な副作用として多臓器不全,敗血症性ショック,急性腎障害,低血圧が報告されている.
[PDF] COVID-19 の薬物治療ガイドライン version 4 1
(serum albumin)は血漿の中で最も豊富に見られるタンパク質だが、デキサメタゾンも他の薬やホルモンと同様にこの血清アルブミンによって身体全体に運ばれる。ところがこのタンパク質に関する因子のため、COVID-19に関連する炎症を治療するときに安全で効果的となるようデキサメタゾンを投与するのは難しい。例えば、糖尿病の患者では、タンパク質中の重要なアミノ酸に対して糖化(glycation)の過程を経て糖分子が結合していることがよくある。こうなると薬のタンパク質への結合が妨げられことがある。イブプロフェン(ibuprofen)のような一般的鎮痛剤なども血清アルブミン上にある同じ結合部位を使い競合するので、同時に服用するとデキサメタゾンの輸送が妨げられる。さらに、肝臓病、栄養失調、高齢などのCOVID-19の危険因子に加え、ウイルス自身も患者の血清アルブミン濃度を下げることがある。この複雑な事情により、内科医が血中におけるデキサメタゾンの遊離:結合の相対比を見積もり、薬の毒性増加、副作用、薬効の低下を招く可能性について判断するのは難しくなっている。
新型コロナウイルス感染症 COVID-19 診療の手引き 第 8.0 版
図「新型コロナウイルス感染症の重症患者に投与される治療薬の作用機序」に重症患者に投与されるデキサメタゾン、トシリズマブ、バリシチニブが働くメカニズムを簡単に示しました。薬によって作用メカニズムは異なります。デキサメタゾンは副腎皮質ステロイドの一種で、免疫全般、特にマクロファージからの炎症性サイトカインの産生を抑えます。
免疫の過剰な働きを抑えるステロイド剤の「デキサメタゾン」は、2020年7月に厚生 ..
コルヒチンはイヌサフランに含まれるアルカロイドで、本邦では抗炎症薬として痛風、家族性地中海熱が適応症です。琉球大学では、臨床薬理学講座教授 植田真一郎が、COVID-19でも重症化のリスクが高い糖尿病合併冠動脈疾患患者のコホート研究から、慢性炎症亢進と心血管イベント発生が関連すること、炎症反応の亢進した冠動脈疾患患者でのコルヒチンの内皮機能改善作用を確認しており、2型糖尿病合併冠動脈疾患患者を対象として、2017年から心血管イベントの抑制効果を検証する医師主導治験を実施しています。その中で、コルヒチンの作用機序から今回COVID-19治療薬としての開発構想が生まれました。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)重症化の過程では、いわゆる宿主炎症反応期として過度の好中球活性化やサイトカイン増加により血管内皮炎が生じ、微小血管に血栓が形成され、これが致命的な呼吸不全や多臓器不全を引き起こす可能性も示唆されています。コルヒチンは好中球活性化を抑制し、病態のキーとなるサイトカイン生成をNLRP3インフラマソーム形成抑制により低下させ、重症化を防止できる可能性がある。コルヒチンはリスクの高い軽症患者や呼吸不全のない中等症患者への投与により、ウイルス反応期に引き続いて生じる過剰な炎症反応を抑制し、重症化を予防することが期待されます。またCOVID-19により強い炎症が肺や血管に生じた場合、線維化や動脈硬化の進展などで回復後の予後の悪化に繋がる可能性もあり、本邦でも回復後の調査が開始された。実際1918年のスペイン風邪の後、重症の呼吸器感染症後に1年間にわたって心血管リスクが上昇することが観察されています。したがって継続的な抗炎症治療が回復後も必要とされる可能性があり、低用量で抗炎症作用を呈し、免疫抑制作用がなく、長期使用でも重篤な副作用のないコルヒチンはその候補となります。
作用の強いデキサメタゾンエリキシルの使用頻度が高くなる。(50歳代病院 ..
●コルヒチン
イヌサフランの種子や球根に含まれる成分で、古くはローマ時代から痛風治療に用い られていた。現在は痛風発作の寛解及び予防と家族性地中海熱の治療薬として承認されている。琉球大学では、コルヒチンの抗炎症作用に着目した臨床薬理学講座教授植 田が、2型糖尿病合併冠動脈疾患患者を対象とした心血管イベント抑制効果を検証する医師主導治験を2017年から実施している。
本稿では、本邦で治療薬として承認されている抗ウイルス薬のレムデシビルと、抗炎症薬であるデキサメタゾン ..
研究には英国内の175以上の病院が参加した。3月から今月上旬までの間、無作為に抽出した新型コロナウイルスの患者約2100人にデキサメタゾンを10日間投与し、非投与の患者約4300人と結果を比較した。
本剤の多発性骨髄腫増殖抑制作用の機序の詳細は不明であるが、アポトーシスの誘導 ..
複数のRCTでTCZによる死亡率の低下は認められなかったが、侵襲的酸素投与又は死亡に至った患者割合を評価したEMPACTA試験ではTCZの有用性が示された。また、REMAP-CAPグループ主導で実施された大規模な非盲検ランダム化アダプティブプラットフォーム試験やRECOVERY試験でもIL-6阻害薬の有用性が示されており、これらのプラットフォーム試験とRCTsの結果の差異は、治療体系の変化に伴いデキサメタゾンの併用率が大きく異なることが一因と考えられる。これらの知見を踏まえ、NIHガイドラインでは、人工呼吸器/高流量酸素を要する患者や、急速に酸素化の悪化を認めCRP値等の炎症マーカーの上昇を認める患者等に対して、デキサメタゾン併用下でのTCZ (8 mg/kg[最大800 mg/body]単回静脈内投与) 投与推奨が追記され、FDAは、人工呼吸器、ECMO管理含めた酸素投与を要し、ステロイド投与を受けている入院中の成人および2歳以上の小児COVID-19患者に対する本剤の緊急使用許可を2021年6月24日に発出した。国内では、非盲検単群国内第Ⅲ相試験(J-COVACTA 試験:JapicCTI-205270)が企業治験として実施されており、今後承認申請について規制当局と協議予定とのことである。
今回同定したクロミプラミンと既承認の COVID-19 治療薬(レムデ
50%)を認める結果(図11)22)であった。
英国オックスフォード大学Yuらが報告した「PRINCIPLE試験」は,65歳以上あるいは併存症のある50歳以上のCOVID-19疑いの非入院症例4700例を対象に行われた。結果は,吸入ステロイドであるブデソニド吸入の14日間の投与で回復までの期間を標準治療群と比較して2.94日短縮(図12)23)し,「STOIC試験」と同様の結果が得られた。4700例の被検者は標準治療群1988例,標準治療+ブデソニド吸入群1073例,標準治療+その他の治療群1639例にランダムに割り付けられた。ブデソニド吸入は800μgを1日2回吸入し,最大14日間投与するという治療で,喘息治療でいうところの高用量で行われた。症状回復までの期間推定値は被検者の自己申告が採用されたが,標準治療群14.7日に対してブデソニド吸入群11.8日と,2.94日の短縮効果(ハザード比1.21)を認めている。同時に評価された入院や死亡については,標準治療群8.8%,ブデソニド吸入群6.8%と,2ポイントの低下を認めたが,優越性閾値を満たさない結果であった。
これまでのCOVID-19に対する吸入ステロイドの有効性を検証した報告では主に,明らかな肺炎のない症例や,外来で管理できる症例に限った研究が多い。前述の「STOIC試験」でも酸素化の保たれている軽症例が対象となっているが,「PRINCIPLE試験」ではCOVID-19の重症化リスクである高齢者や併存症のある症例が対象となっており,高リスク群に対する効果が示されたことは,大変期待できる結果であった。ただし慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease:COPD)に対する吸入ステロイドは,新型コロナウイルスが気道上皮に感染する際に必要となるACE2受容体の発現を減少させ,COVID-19の感染予防に効果を示すと言われている。「PRINCIPLE試験」でもブデソニド吸入群に現喫煙者や過去喫煙者が46%含まれていることや,喘息やCOPD症例が9%含まれていることは差し引いて考える必要がある。また,ブデソニド吸入はタービュヘイラーⓇというデバイスを用いて薬剤を投与する必要があるため,呼吸促拍している症例や人工呼吸管理の重症例に対しては,吸入ステロイドの投与は現実的には難しい。
また呼吸器内科医としては,重症度の高いCOPD症例に対する吸入ステロイドは肺炎のリスクが高まるということが懸念材料である。「PRINCIPLE試験」では,重篤な有害事象として,ブデソニド吸入群での肋骨骨折とアルコールによる膵炎によるものの2例が報告されているが,治療薬とはまったく関係ないものとされており,懸念していた肺炎のリスクについては取り上げられていない。ただ,もともと吸入ステロイドであるブデソニドは,気管支喘息や閉塞性換気障害の程度の強いCOPD,増悪を繰り返すCOPDに使用されうる薬剤であり,ステロイドの頻繁な使用は吸入剤とはいえ,一抹の不安が残る。
さらに呼吸器内科医として気になる点としては,適切な吸入薬の使用やアドヒアランスの面が挙げられる。「PRINCIPLE試験」でのブデソニド吸入は800μgを1日2回吸入,最大14日間であるが,症状の乏しいCOVID-19症例かつ吸入薬に慣れていない患者に対する治療であるので,実際のところ治療薬を適切に吸入できていない可能性がありうる。COVID-19症例や発熱症例に対面で時間をかけて吸入指導を行うことはおそらく非現実的なので,使用は紙媒体やデジタルデバイスでの吸入指導を理解できる症例に限られることになるであろう。そして,吸入ステロイドがCOVID-19の治療薬として承認されたとしても,その適正使用に関しては慎重に行うべきである。前述のシクレソニド吸入のケースシリーズが報告された際も,一部メディアで大々的に取り上げられたために,病院や地域の調剤薬局で,シクレソニドの需要に対応できなくなったことがある。以前から喘息の治療でシクレソニドを使用していた患者に処方ができないケースが散見され,多くの呼吸器内科医が実臨床で困惑されたはずである。
COVID-19の治療選択肢が増えることは喜ばしいことではあるが,吸入ステロイドを本来必要としている気管支喘息や増悪を繰り返すCOPD症例に薬剤が行き渡らないことだけは,絶対に避けなければいけない。本稿では,COVID-19の一般的な薬物治療から抗炎症作用を目的としたステロイド治療まで,今までのエビデンスをふまえて,まとめさせて頂いた。酸素投与が必要なCOVID-19症例に対してステロイド治療は重要な選択肢となりうるが,そうでない症例に関しては逆効果になることもありうる。当然のことであるが,COVID-19というだけで機械的に治療法を選択するのではなく,ステロイドが必要な症例の選択,投与開始日や投与期間,副作用の管理,その他のCOVID-19治療薬の選択など,症例ごとに繊細かつ十分に検討されるべきと考える。
ステロイドによる治療はCOVID-19の治療選択肢のうちのひとつであるが,このようなエビデンスの積み重ねで,COVID-19での重症化や死亡が1人でも抑えられることを現場の臨床医として切に願っている。【文献】1)Siddiqi HK, et al:J Heart Lung Transplant.