1 原発性アルドステロン症の病理:WHO2022 笹野公伸,他


副腎からアルドステロンというホルモンが過剰につくられる病気で、高血圧症の5~10%をも占めるとされ、若年から高齢者まで広く認められます。アルドステロンは、体内にナトリウム(塩分)を貯留することにより血圧を上げるホルモンです。副腎腫瘍がアルドステロンを過剰に産生する片側性(アルドステロン産生腺腫)と左右の副腎全体が過剰に産生する両側性の2つがあります。通常は遺伝しません。原発性アルドステロン症では、ほかの高血圧患者さんと比べると、、、冠動脈疾患、腎障害などの発症率が高いことが報告されています。治療のポイントは、血圧を正常レベルに下げて、アルドステロンの働きを抑えることです。


原発性アルドステロン症(PA)の診療ガイドライン2021年から変更点を紹介していますが、今回はデキサメタゾン抑制試験についてです。

慶應義塾大学病院の放射線科では、副腎静脈のさらに細い血管からも何カ所か採血を行う、非常に高度な技術を要する超選択的副腎静脈サンプリングを実施しています。

また副腎腺腫がコルチゾールを自律的に分泌していることがあり、原発性アルドステロン症に副腎性サブクリニカルクッシング症候群を合併していることもあります。これはデキサメサゾン抑制試験で判定します。

原発性アルドステロン症(Primary Aldosteronism;PA)

口絵カラー
Perspectives on Primary Aldosteronism: Inflection Points William F. Young, Jr.
改訂第4版発刊にあたって 成瀬光栄
改訂第3版 序文 成瀬光栄
改訂第2版 序文 成瀬光栄
初版 序文 成瀬光栄
原発性アルドステロン症診療における高血圧専門医の役割 島本和明
原発性アルドステロン症診療における内分泌専門医の役割 小川佳宏
執筆者一覧
略語一覧

第I部 基礎編
1 アルドステロン発見の歴史 平田結喜緒
2 アルドステロンの合成 柴田洋孝
3 アルドステロンの分泌調節 宮森 勇
4 アルドステロンの心血管作用 吉本貴宣,他
5 アルドステロンの腎作用 瀬田公一
6 ミネラルコルチコイド受容体の活性化 柴田洋孝
7 腎ミネラルコルチコイド受容体の調節機構 柴田 茂
8 アルドステロンの非ゲノム作用 坂本竜一
9 心血管アルドステロン合成系 武田仁勇,他
10 アルドステロン・エスケープ現象 成瀬光栄
11 アルドステロン・ブレイクスルー現象 成瀬光栄,他

第II部 臨床編
第1章 総論
1 原発性アルドステロン症発見の歴史と変遷 平田結喜緒
2 原発性アルドステロン症の成因(遺伝子変異) 村上正憲
3 原発性アルドステロン症の成因(異所性受容体発現) 原 一成,他
4 原発性アルドステロン症の成因(生体リズム異常) 岡村 均,他
5 原発性アルドステロン症の疫学・頻度 上芝 元
6 原発性アルドステロン症の病型 成瀬光栄,他
7 原発性アルドステロン症の関連病態(薬剤性を含む) 角谷美樹,他
第2章 診療ガイドライン
1 日本内分泌学会診療ガイドライン 方波見卓行,他
2 海外の診療ガイドライン 一城貴政
第3章 診断
A スクリーニング法
1 アルドステロン・レニン測定法 難波多挙
2 スクリーニングの対象 中尾佳奈子
3 スクリーニング法 成瀬光栄,他
4 降圧薬服用時の注意 成瀬光栄,他
B 機能確認検査
1 総論 成瀬光栄,他
2 カプトプリル試験 成瀬光栄,他
3 生理食塩水負荷試験 髙橋克敏
4 フロセミド立位試験 橋本重厚,他
5 経口食塩負荷試験 柴田洋孝
6 フルドロコルチゾン負荷試験 柴田洋孝
7 デキサメタゾン抑制迅速ACTH試験 園山拓洋
C 病型診断法
1 原発性アルドステロン症の臨床的病型予測 小林洋輝
2 AIによる病型診断法 唐島成宙,他
3 画像診断の実際 桑鶴良平
4 CTの診断的意義(内科からのポイント) 成瀬光栄,他
5 副腎シンチグラフィの診断的意義(内科からのポイント) 田辺晶代,他
D 副腎静脈サンプリング
1 総論 成瀬光栄,他
2 内科医からのアドバイス 成瀬光栄,他
3 循環器内科医からのアドバイス① 左右副腎静脈カテーテル挿入のポイント 藤井雄一
4 循環器内科医からのアドバイス②
副腎静脈サンプリングの手順およびカテーテル操作のコツ 亀村幸平
5 放射線科医からのアドバイス①
副腎静脈サンプリングを確実に成功させるためのポイント 姫野佳郎
6 放射線科医からのアドバイス② 手技のポイント 高瀬 圭
7 ACTH負荷の目的と意義 武田仁勇
8 ACTH負荷AVSの点滴法と静注法の比較 田辺晶代,他
9 術中迅速コルチゾール測定の臨床応用 米谷充弘,他
10 副腎静脈サンプリングの結果判定法 成瀬光栄
11 片側不成功時の判定方法 藤井雄一
12 Apparent bilateral aldosterone suppressionとは 和田典男
13 超選択的副腎静脈サンプリング 中井一貴,他
第4章 治療
A 薬物治療
1 薬物治療 平田結喜緒
2 アルドステロン拮抗薬 瀬田公一
3 周術期管理の注意点 成瀬光栄,他
B 外科治療
1 外科治療 滝澤奈恵,他
2 ミニマム創内視鏡下副腎摘除 石川雄大,他
3 原発性アルドステロン症のラジオ波焼灼術 高瀬 圭
4 腹腔鏡下副腎部分切除術 川崎芳英,他
5 手術の治療効果の判定方法 方波見卓行,他
6 手術予後に影響する因子 栗原 勲
第5章 病理
1 原発性アルドステロン症の病理:WHO2022 笹野公伸,他
2 APCC/APMの病態生理学的意義 西本紘嗣郎,他
第6章 合併症
1 心血管合併症 岡本隆二
2 腎障害 土師達也,他
3 Masked chronic kidney disease in primary aldosteronism(masked CKD) 髙橋克敏
4 肥満・糖代謝異常 柳瀬敏彦,他
第7章 特殊な病態での診断と治療
1 高齢者における原発性アルドステロン症 野里陽一,他
2 妊婦における原発性アルドステロン症 成瀬光栄,他
3 小児における原発性アルドステロン症 天野直子
4 コルチゾール同時産生の場合 曽根正勝
5 腎機能障害合併の場合 瀬田公一
6 睡眠時無呼吸症候群(SAS)と原発性アルドステロン症 工藤正孝,他
第8章 トピックス
1 原発性アルドステロン症診療の国間・施設間多様性と標準化の必要性 成瀬光栄
2 ENS@Tとの連携と共同研究 成瀬光栄
3 鑑別診断のバイオマーカー:マイクロRNA 中野雄二郎
4 鑑別診断のバイオマーカー:オキソコルチゾール 手塚雄太,他
5 原発性アルドステロン症の非侵襲的新規画像診断 成瀬光栄,他
6 アルドステロン合成酵素阻害薬-現状と展望 平田結喜緒
第9章 Perspective
1 今後解決すべき課題(診断面) 成瀬光栄
2 今後解決すべき課題(治療面) 方波見卓行,他
コラム
・10~20歳代のPAを診たら考慮すべき疾患
─「17-hydroxylase欠乏症候群」 渡辺 泱
・Subclinical primary aldosteronism 伊藤裕二,他
・PAのレジェンド:故・福地總逸先生を偲ぶ
―原発性アルドステロン症の診断と治療に捧げた生涯 橋本重厚
・PAのレジェンド:Richard P Lifton 平田結喜緒
・手術前後の補液をどうするか 渡辺 泱

索引

29歳女性.出産後2カ月目から動悸と息切れが生じ,家族に前頸部の腫大を指摘されたため来院した.児に母乳栄養中である.身体所見:洞性頻脈84回/分,甲状腺腫大あり.血液所見:FT4 3.90 ng/dL,FT3>30 pg/mL,TSH 0.003 μIU/mL.本症例で鑑別診断をするために有用な検査はどれか.2つ選べ.

[PDF] 原発性アルドステロン症診療ガイドライン 2021

の症状がみられます。高血圧が持続すると動脈硬化を起こし、や虚血性心疾患、眼底出血などの原因となります。
また、腎臓で塩分(ナトリウム)の再吸収が亢進し、代わりにカリウムの排出が進みます。その結果、重症の場合は低カリウム血症(血液中のカリウム濃度が非常に低い状態)が生じます。
原発性アルドステロン症の患者さんで低カリウム血症が出現するのは5割未満といわれていますが、塩分の過剰摂取や利尿薬の使用によって低カリウム血症が誘発されるケースもあります。
低カリウム血症は一般的な高血圧ではみられず、原発性アルドステロン症による高血圧特有の症状といえます。

レニンの値が低く、副腎からアルドステロンが過剰に分泌されている場合、原発性アルドステロン症と診断されます。
スクリーニング検査で血中のアルドステロンとレニンを測定し、アルドステロン/レニン比(ARR)が200以上の場合、この病気を疑います。

副腎疾患(原発性アルドステロン症、クッシング症候群、褐色細胞腫

アルドステロンには、体内の塩分(ナトリウム)や水分の量を調整して、血圧を正常に維持する働きがあります。健康な状態では、体内の塩分・水分量の低下を受けて腎臓から出されるレニンという酵素によって、アルドステロンの分泌は制御されています。
しかし原発性アルドステロン症では、アルドステロンが自律的に(レニンの分泌と関係なく)過剰に分泌されることで、体内の塩分・水分量が増加し、血圧が上昇します。

の約90%は原因が特定できない本態性高血圧ですが、その場合は塩分(ナトリウム)を過剰に摂取するとレニンの分泌が抑制されるため、アルドステロンも低い値を示します。しかし、原発性アルドステロン症では、塩分摂取が過剰であっても副腎からアルドステロンが過剰に分泌されます。ここが原発性アルドステロン症と本態性高血圧の違いになります。


pressionシンチでは両側副腎像は抑制された. 原発性アルドステロン症は約86%がアルドステ ..



プライマリケア医の先生方の場合
スクリーニング陽性を満たせば紹介していただいて良い

総合病院の先生方の場合
先生方の病院で副腎静脈サンプリングを行ったものの、結果に疑問が残る場合

[PDF] Ⅰ.1 原発性アルドステロン症(PA)診療アップデート

◇副腎腫瘍が原因の場合
手術(外科療法)によって腫瘍を取り除くことで根治することができます。原発性アルドステロン症の治癒に伴っても治癒する症例は、約半数といわれています。特に高血圧罹患歴が短い人や若年女性では高血圧の治癒が多くみられます。
ただ、高齢者や周術期(手術中に加え前後の期間を含めた一連の期間)のリスクが高い人、手術による根治治療を望まない患者さんなどには、薬物治療が選択されることもあります。

以上の研究は原発性アルドステロン症におけるアルドステロン産生腺腫の鑑別への ACTH 刺激.

糖尿病・内分泌・代謝内科は、糖尿病、高血圧など皆様に身近な生活習慣病から、1型糖尿病、副腎などの内分泌病、家族性高コレステロール血症などの遺伝病など、高度な専門性を必要とする病気まで幅広く対応しています。私たちのモットーは、目先の病気を治すことだけでなく、心臓、脳の病気、認知症、がんなどの予防医療に注力し、皆様と一緒に健康長寿、一病息災に取り組むことにあります。かかりつけ医師とご相談のうえ、今の病気の状態を一度見直してみませんか。

[PDF] 原発性アルドステロン症の臓器障害に関するデータベース研究

3歳男子.新生児マス・スクリーニングで甲状腺機能低下症を指摘され,以来ホルモン補充療法を受けている.今回,病型診断のため来院した.甲状腺はびまん性に腫大し,軟らかい.甲状腺ホルモン投与中止後の検査は,FT4 0.4 ng/dL,TSH 56 μIU/mL,Tg 3 ng/mL,TgAb 0.5 IU/mL以下であった.甲状腺ヨード摂取率70%,パークロレイト放出試験は陰性であった.異常が最も疑われる遺伝子はどれか.

症の疑いで検査を受け、原発性アルドステロン症、腎血管性高血圧、本態性高血圧の ..

手術を希望され、片側性にアルドステロンが過剰にでている場合は、病態の治癒、過剰アルドステロン分泌と高血圧の正常化、臓器障害の改善と進展防止が期待できるため、腹腔鏡下副腎摘出術を泌尿器科で行います。アルドステロン産生腺腫ができた場所によっては腫瘍部のみを切除する副腎部分切除術が行われる場合と患側副腎摘出術が行われる場合があります。

[PDF] 原発性アルドステロン症の診療ガイドライン策定に関する研究

改訂第4版発刊にあたって

原発性アルドステロン症(PA)が1955年に第一例を報告してから約70年が経過する.特に過去20年の間で,最も注目された代表的な内分泌疾患の一つとなっている.2017年3月に発刊した第3版の序文にて,1955年のConn博士による最初の発表以後,現在までの論文数をPubMedで検索した結果を図に示した.1970年から1980年頃のFirst peak後,いったんは減少した論文数がその後経年的に増加しSecond peakを示すのが明らかであった.今回,約5年が経過し,改めてその後の論文数を確認したところ,さらに論文数が増加しており,全世界でPAに対する関心は高く,様々な観点の研究が継続的に増加しているといえる.
このPAに関する研究の増加にはいくつかの背景がある.第1は,高血圧におけるスクリーニング指標としてアルドステロン/レニン比(ARR)が導入されたことにより,疾患の頻度がそれまで想定されていたよりはるかに高いことが明らかにされたこと,第2はアルドステロンが古典的な腎臓への作用のみならず心血管系に対する直接的な作用を有し,それに伴う心血管系合併症が多いことが報告されたこと,第3は各国から診療ガイドラインが発表でされ,日常診療に還元されたことである.これらと同時に,診断の各ステップの詳細と治療選択において,専門医間差,施設間差,国間差があり,標準化のためのエビデンス創出の重要性が認識されてきたことも関連があるといえる.
わが国でもPAの重要性の認識が高まり,ガイドラインが整備されたのに伴って,診療に従事する医師数,患者数が飛躍的に増加したことを背景に,2007年11月にPAに関する実践的なマニュアルとして本書『原発性アルドステロン症診療マニュアル』(初版)を発刊した.その後,2010年に改訂第2版,2017年に改訂第3版を発行したが,この数年間でPAの診断,治療が飛躍的に進歩したこと,2021年に日本内分泌学会の診療ガイドラインが改訂されたことから,さらに,PAの第一例発表後約70年を経過することの記念として,今回,内容を刷新し改訂第4版を発行することになった.本改訂で新たに追加したおもな点は下記である.
①アルドステロン・エスケープ現象
②PAの成因に関する最新の進歩
③国内外のガイドラインの解説
④スクリーニング・機能検査の新判定基準
⑤病型診断法,画像診断法の進歩
⑥AVSの実施法と新判定基準
⑦周術期の治療
⑧新規インターベンション
⑨手術効果の判定法
⑩高齢者における治療選択
⑪診断法のdiversityと国際共同研究
PAの第一例の報告から約70年を経て,その診療と研究はますます発展している.図に過去から現在までの進歩,診療の基本的な流れと今後の課題を図に示した.本改訂第4版が今後さらにわが国のPAの診療と研究の発展に役立つことを期待している.改訂に際してご無理をお願いした多数の執筆者の先生方に誌面を借りて改めて深く御礼申し上げる次第である.

2024年3月
医仁会武田総合病院
内分泌センター・臨床研究センター センター長
成瀬光栄

追悼:昨年,慶應義塾大学名誉教授である猿田享男先生が逝去されました.猿田先生はわが国における原発性アルドステロン症の診療・研究の第一人者のおひとりで,この書籍の第1版発行から現在に至るまで多大なるご指導をいただき,また書籍の推薦文も執筆いただきました.40年以上にわたり,温かいご指導をいただきましたことに感謝し,猿田先生のご冥福を心よりお祈り申し上げます.






改訂第3版 序文

原発性アルドステロン症(PA)は近年,最も注目された代表的な内分泌疾患の一つである.1955年のConn博士による最初の発表以後,現在までの論文数をPubMedで検索すると,1970年から1980年ごろのFirst peak後,いったんは減少した論文数がその後現在まで経年的に増加しSecond peakを示しているのが分かる(図).このPAに関する研究の増加には3つの背景がある.第1は,高血圧におけるスクリーニングにアルドステロン・レニン比(ARR)が導入され,疾患の頻度がそれまで想定されていたよりはるかに高いことが明らかにされたこと,第2は,アルドステロンが古典的な腎臓への作用に加えて心血管系に対する直接的な作用を有し,それに伴う心血管系合併症が多いと報告されたこと,第3は各国で診療ガイドラインが発表されたことである.
わが国でも本疾患の再啓発が普及し,診療に従事する医師も経験される患者数も飛躍的に増加したことから,PAに関する実践的なマニュアルとして本書『原発性アルドステロン症診療マニュアル』が企画・発刊された.アルドステロンに関する基礎的事項から診断,治療に関する多様な情報をコンパクトにまとめた書籍である.2007年11月に初版を発刊後,2010年改訂第2版を発行したが,この数年間でPAの診断,治療が飛躍的に進歩したことから,今回,改訂第3版を発行されることになった.機能診断,副腎静脈サンプリング,免疫組織染色,成因と密接に関連する各種の遺伝子変異などにおける進歩を追加するとともに,2016年に日本内分泌学会から発表された新たな診療指針「わが国の原発性アルドステロン症の診療に関するコンセンサス・ステートメント」を踏まえた解説を随所に追加した.本改訂版が今後さらにわが国のPAの診療に役立つことを期待している.また,改訂に際してご無理をお願いした多数の執筆者の先生方に誌面を借りて改めて深く御礼申し上げる次第である.

2017年3月
国立病院機構京都医療センター
臨床研究センター 特別研究員
成瀬光栄






改訂第2版 序文

内分泌疾患は多様な臓器の多様な疾患を包含するが,個々の疾患はたとえば糖尿病などの代謝疾患と比較して頻度が少ないことから,臨床医学の現場においてその重要性が必ずしも十分に認識されているとはいえない.しかし,内分泌疾患の診断の遅延は生命にかかわる深刻な影響を及ぼすことがあり,また血圧,糖・脂質,骨代謝などの慢性的な異常を介する標的臓器障害を招来することもある.それゆえ,適切な早期診断と治療が肝要で,そのためには十分な症例の経験と疾患に対する知識が必須である.しかしながら,内分泌疾患に関する系統的な書籍は従来と比較して激減しているのが現状である.このような背景から実地臨床の視点に立って企画・刊行されているのが診断と治療社の「内分泌シリーズ」である.編者らはこれまで,『内分泌代謝専門医ガイドブック』『原発性アルドステロン症診療マニュアル』『褐色細胞腫診療マニュアル』『わかりやすい原発性アルドステロン症診療マニュアル』『クッシング症候群診療マニュアル』『甲状腺疾患診療マニュアル』『内分泌機能検査実施マニュアル』『内分泌性高血圧診療マニュアル』の企画・編集を行ってきた.
原発性アルドステロン症(PA)は近年,最も注目されている内分泌疾患の一つである.従来考えられてきたよりも頻度が高いこと,適切な診断・治療により治癒可能であること,標的臓器障害が少なくないこと,などが注目される背景である.本疾患の診療に従事する医師も増加し,診断例も飛躍的に増加している.『原発性アルドステロン症診療マニュアル』はPAに関する実践的なマニュアルで,アルドステロンに関する基礎的事項から診断,治療に関する多様な情報をコンパクトにまとめた書籍である.本書は2007年11月に発刊後,大変多数の先生方に活用いただいてきたが,この分野での進歩が著しいことを考慮して,この度,さらに内容を充実させるために改訂第2版を発行することになった.今回の改訂では全体的なフォーマットの統一に加えて,副腎静脈サンプリングの項で,各施設の相違点を明確に整理するとともに,各種学会ガイドラインや各施設でのPA診療手順とその比較についても解説を追加した.本改訂版が今後さらにPAの診療に役立つと信じている.誌面を借りて,改訂に際してご無理をお願いした執筆者の先生方に改めて深く御礼申し上げる次第である.

国立病院機構京都医療センター
内分泌代謝高血圧研究部 部長
成瀬光栄






初版 序文

Conn博士により原発性アルドステロン症(primary aldosteronism:PA)が報告されてから50年が経過する.その間,レニン,アルドステロンの測定法の確立とCTを主とする画像診断法の進歩により,内分泌の専門施設でなくても診断が可能となった.同時に,その頻度が当初に想定されたよりもはるかに低いとされたことから,“特殊な内分泌疾患”として,日常診療における注目度は必ずしも高くはなくなっていた.しかし,近年になり①PAの頻度が予想以上に高いこと,②脳梗塞や心肥大などの臓器障害の合併が少なくないことが報告されたのに加えて,アルドステロンの研究が進歩し,新規のアルドステロン拮抗薬エプレレノンが臨床応用されたことから,PAの診断と治療が再び脚光を浴びている.
高血圧と低カリウム血症を合併し,内分泌学的にレニンの抑制,アルドステロンの高値が明らかで,副腎CTで明確な腫瘍を認める典型例の診断は容易である.しかしながら,血清カリウムが正常,レニンの抑制程度が弱い,アルドステロン増加が軽度,副腎CTで明確な腫瘍を確認できないなど,機能面,形態面で典型的所見を呈さず,診断に苦慮する症例も多数経験されてきている.PAに対する注目が高まるのと平行して,その診断の各ステップと治療における種々の問題点が浮き彫りにされてきたといえる(図).通常,1)低カリウム血症の有無にかかわらず,すべての高血圧患者において,少なくとも一度はPRA, PAC測定によるスクリーニングを実施,2)陽性であれば,アルドステロンの自律性かつ過剰分泌を証明する機能的確認検査を実施,3)陽性であれば副腎CTによる局在診断,4)腫瘍を確認できない場合は,副腎静脈サンプリングを実施する一側性病変であることが確認できれば,積極的に内視鏡的副腎摘出術を検討する.しかしながら,スクリーニング法のカットオフ値,機能的確認検査の組み合わせとカットオフ値,副腎CTの撮影条件,副腎静脈サンプリングの適応と実施方法,カットオフ値,長期予後からみた手術と内科的治療の予後比較など,種々の点の詳細は必ずしもコンセンサスがないのが現状である.
本書は高血圧の日常診療においてPAを的確に診療できることを目的として,PAの診断と治療に関する最新の知識,動向を網羅すると同時に,その中から今後解決すべき様々な課題が明らかになることも意図して企画した.執筆者としては本分野でわが国を代表する諸先生方にお願いさせて戴いた.本書がわが国のPAの診療水準の向上に役立てば幸いである.

国立病院機構 京都医療センター
内分泌研究部 成瀬光栄

原発性アルドステロン症 (げんぱつせいあるどすてろんしょう)とは

◇左右両側副腎の過形成が原因の場合
手術の対象とならず、アルドステロン拮抗薬による治療を行ないます。アルドステロン拮抗薬はアルドステロンの働きを抑制し、塩分(ナトリウム)の排出を促進させてカリウムの排出を減少させます。ただ、アルドステロンの分泌量は低下しないため、根治治療とはなりません。

原発性アルドステロン症(PA)とは,1955 年に Conn 博士により最初に報告されたアルドステロン

かつては、患者さんに占める原発性アルドステロン症の割合は1%程度と考えられていました。しかし近年では、高血圧患者さん全体を対象としてスクリーニング検査を行なうことが推奨されるようになったため、患者さんに占める割合は増加し、5%程度と考えられています。重症の高血圧患者さんの中では、その割合はさらに上昇します。

心配な事・分からない事などありましたら遠慮なく看護師に声をおかけください。 原発性アルドステロン症精査を受けられる 様.

スクリーニング検査で原発性アルドステロン症が疑われた場合は、機能を確認する検査として、生理食塩水負荷試験やカプトプリル試験、蓄尿検査などを行い、アルドステロンの過剰分泌の程度を確認します。副腎腫瘍がある場合、コルチゾールの同時産生の有無を調べるため追加で検査(1mgデキサメタゾン抑制試験)を行います。